鉄道 その一 <長距離交通>
中国の長距離移動の要は電車です。ほとんどは電化されていないので正確には汽車ですね。新疆やチベット(西藏)のように鉄道網が整備されていないところを除いて、長距離移動は基本的に鉄道に頼ることになります。
成都から蘭州へ |
中国国内を長いこと移動してまわる場合は、まず中国国内の時刻表を手に入れることをお勧めします。日本の時刻表というと電話帳みたいな分厚いやつですが、中国はそれほど鉄道網が発達していないのでちょっと厚い漫画本程度のサイズで、容易に持ち運ぶことができます。移動ルートを考える上でももちろん役に立ちますし、窓口で切符を買うとき、あると無いとでは買いやすさがまったく違います。
私はこの時刻表を上海駅の前の屋台で手に入れたのですが(10元)、売り切れの場合が多いという話も聞いたことがあります。見つからなかった場合は大きめの本屋さんで探してみてください。ちなみに上海や北京のような大都市の場合は、その駅の時刻表を売っていたりします(上海のは5元)。間違えて買わないように注意してください。
鉄道を利用する上で最大の難関が、切符の入手です。切符は基本的に駅で買うのですが、切符売り場は常に長蛇の列ができており、割り込みも日常茶飯事です。また切符は慢性的に不足気味で、特に当日の夜行の切符はまず手に入らないと考えるべきでしょう。常に2、3日先の切符を買うように心がけてください。私は各都市に着いたらすぐに地図と次の都市への切符を買うようにしていました。
窓口での買い方ですが、窓口のおばさんはこちらが外国人だからといって容赦してくれない場合が多いので、しっかり準備してから行くようにしましょう。まず時刻表で購入したい列車の候補を三つくらいピックアップします(マーカーとポストイットがあると便利です)。そしたら小さな紙かなにかに「日付、列車の番号、乗る駅と降りる駅、席の種類、人数」をメモしておきましょう。列車はそれぞれ、例えばT121というように、アルファベットと数字で名前がついています(ちなみにTは特急)。例えば「8/21 T121 上海到北京 硬卧一张」という感じです。で、窓口でこの紙を見せます。運が良いと何も言わずにすんなりと切符を買うことができます。運が悪いと「没有(méi yǒu)」と言われますので、その時はすかさず第二、第三候補の列車名を告げるか、席種を変えるかしましょう。親切なおばさんは「無いけど別の列車なら」とか提案してくれるので、良いよとかダメだとかちゃんと回答しましょう。よくわからないのに適当にうなずいてると「无座」の切符を渡されたりしちゃうので注意してください。ちなみにどこだったか忘れましたが一度だけこのメモを拒否されたことがあります。そういうときは気合いを入れて口頭で伝えてください。
蘭州駅の切符売り場。ラサ行き青藏铁路専用窓口。普通の切符売り場はもっとずっと混んでいる |
中国には一年に三回の長期休暇があります。春节(旧正月)、五一黄金周(5/1から一週間程度のゴールデンウィーク)、国庆节(10/1から一週間程度。建国記念日)です。この期間は旅行や帰省のために膨大な数の中国人が国内を移動しますので、切符を入手するのは極めて困難になります。またどこへ行っても人、人、人でまともに観光もできない上に、この期間だけホテルや入場料など物価も高騰します。この期間はなるべく中国に行かない、中国国内を移動しないことをお勧めします。
また切符の状況は、この長期休暇の他、学校の休みにも大きく影響されます。9月頭の授業開始を目指して大量の学生が中国国内を移動するため、8月末も切符を入手しにくい状態になるようです。9月頭は新年度のスタートにあたるため特に混雑がひどいようですが、他の学期の区切りにも注意してください。
なおこの時期にどうしても切符を手に入れたい場合は駅ではなく旅行社に行って(なるべく早く。できれば一か月くらい前)切符購入の代行を頼むのがベストです。手数料は大体20〜30元程度です。
国慶節の西安。人で溢れかえる |
国慶節の西安。人で溢れかえる |
時期と同様、鉄道の区間にも注意が必要です。例えばウルムチからカシュガルに行く列車は一日に二本しか無いせいもあり、慢性的に切符が不足しています。今やチベット観光の最大の目玉となったラサ〜西宁の青藏铁路(チベット鉄道)も、個人で駅に行って買える状況ではありません。このような特殊な区間は旅行社に購入を代行してもらうことをお勧めします。
ラサ駅の切符売り場(10/16撮影)。全て売り切れ |
またもう一つ注意すべきは駅の大きさです。始発の多いターミナル駅では切符は多めに割り当てられていて比較的買いやすいのですが、始発が少ない駅だと割当が少なくかなり買いにくいようです(桂林や貴陽で苦労しました)。列車はなるべく始発のものを狙い、ターミナルではない駅から乗るときは切符の手配に注意してください。
旅行社の他に町中の代行窓口で購入することもできます。これは旅行社に代理で買ってもらうのとは違い、駅の販売窓口の出張所、といった形です。コンピュータを鉄道会社にオンラインで繋げて、切符をその場で発行してくれるわけです。そのため旅行社のように売り切れの切符をどこからか探してきてくれるような芸当はできませんが、駅に比べてすいていることが多いのでいろいろな手間を省けて便利です。手数料は5元程度です。
中国の鉄道には基本的に「软卧」「硬卧」「软座」「硬座」と四種類あり、全て予約制です。「软」が一等、「硬」が二等、「卧」が寝台、「座」が座席を意味します。つまり「硬卧」であれば二等寝台ということです。普通に、長距離なら寝台、近距離なら座席、という使い分けでOKです。一等と二等は好き好きですが、正直大差無いと思います。例えば软卧ならコンパートメント四人(二段ベッド)でドア付き、硬卧ならコンパートメント六人(三段ベッド)でドアなし、という程度の差です。
卧铺(寝台車)の切符を買うときは上铺(上段)、中铺(中段)、下铺(下段)とベッドの位置を指定することができます(指定しないと勝手に下铺にされます)。値段は下铺が一番高く、上铺が一番安くなります。おすすめは中铺か上铺で、下铺は避けた方が良いと思います。というのも昼間はみんなが勝手に下铺に座ってしゃべったり何かを食べたりするもので、寝っ転がってのんびり本を読んだり、昼寝したりできません。中铺、上铺なら必要なときは下铺に座って中国人とおしゃべりし、飽きたら自分のところでゆっくり、という風にできます。なお上铺はたまに寒すぎることがあるので注意しましょう。
硬座車内。苏州発杭州行き |
硬卧車内。九江発广州行き |
软卧車内。ウルムチ発西安行き |
切符がうまく買えなくて無座しか買えなかった場合、特に無座で一晩を明かすときは覚悟が必要です。無座はその字面から座席無し、立ち乗りのように思ってしまいますが、実際のところは自由席です。ただしそこは中国です。「一応席があるのか」などと油断してはいけません。席は完全に早い者勝ち、夜行の場合は三人掛けの席に一人で寝ているなんて当たり前です。もうじき下りる、という人は深夜だろうが何だろうが、煙草を吸いながら大声でしゃべっています。嫌がらせのごとく次から次へと車内販売のワゴンがやってきます。
まず乗車の際は走ってください。席は早い者勝ち、途中乗車だったりしたら、ますます席を確保しづらくなります。あと無座の車両は列車の一番端っこについているようですので、とにかく走りましょう。空いている席があったらどんなに狭かろうが、寝ている人がいようが、無理にでも座ってください。中国で遠慮したら負けです。また眠りたいならアルコールは必ず持って行きましょう。あと泥棒には注意。というかそもそも無座なんかに乗らないように計画的な旅行をおすすめします。
それにしても無座の車両は本当に無法地帯です。夜行の硬座でもみんな結構静かに寝ているんですけどねえ。