その孫がぜんぜん私になつかず、そればかりか大きくなるにつれ、女房と同様に私を迫害するどころか、ぶったり蹴ったりして私をいじめるようになるとは、露ほども考えていなかった。
この世に私ほどみじめなジイジが果たしているものであろうか?
- 北杜夫 『孫ニモ負ケズ』 -
マンボウ氏とその孫、ヒロ君との交流を描いたエッセイ集。
一時間程度で読めるような本当に軽いエッセイ。字が大きく挿し絵も入っており、紙もなんだか厚い感じがして、本当にあっという間に読める。
内容はいかにも北杜夫らしいユーモアに溢れた一編。極端にはしゃぎもせず暗すぎもせず、すごくバランスのとれた良い本だと思う。
この本、内容からいって単なるジジバカ(孫バカ?)日記じみたものになりがちな雰囲気であるが、そうはならず誰もが読んで楽しいものになっているというのはさすがだと思う。この本で感心させられてしまうのが、その視点とその表現力である。
読んでいると北杜夫の視点に感心させられてしまうことが多い。主人公のヒロ君は、本を読んでいると非常にユニークな面白い子供のように見えるのだが、やはりそこらへんも、作者のヒロ君を見る視点のユニークさによるところが大きいのだろうと思う。そういった特徴的なものの見方のというのは、作家の作家たるゆえんなんだろう。
表現力に関してはもうさすが、というしか無い。作者の初期の作品、『幽霊』や『木精』のころのすごく堅い文章にくらべると、本当に円熟味を増した、うまい文章になっていると思う(自分がこんなことをいうのは全く不遜であるが)。作者の視点のユニークさも、この見事な表現力があって活きてくるものなのだろう。
本当に軽い、小編のエッセイであるがいかにも北杜夫らしい、そして北杜夫の作者としての力が良く出ている本だと思う。おすすめの一冊である。
私がこのエッセイの表題に「孫ニモ負ケズ」なんてつけたのは、いつかは孫にきびしくなろうなどと思ったからである。しかし、もうその気力もない。
そもそも、かなり前に妻が、
「ヒロ君も大きくなったから、おじいさまと呼ばせましょうか」
と言ったとき、
「いや、ジイジの方がいい」
と答えた私である。私は永久にダメなジイジでありたい。
- 北杜夫 『孫ニモ負ケズ』 -
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