ジュール・ベルヌ 『80日間世界一周』

「わたしはフォッグ氏と同意見だ。地球は小さくなった。いまや、100年前の10倍以上の早さで、地球を一周することができるのです。そして今我々が話題にしている事件においても、そのためにより迅速な捜査が可能になる。」

- ジュール・ベルヌ 『80日間世界一周』 -




写真 『海底二万里』『十五少年漂流記』など冒険小説の大家ジュール・ベルヌの代表作の一つ。ロンドンに住む謎の人物フィリアス・フォッグ氏は革新クラブのメンバーと80日間で世界を一周することができるかどうか、賭をする。そこで召使いパスパルトゥーを連れ、スエズ、インド、中国、日本、アメリカと世界一周の旅に出る。
 決して深みがあるわけではないが、テンポも話の構成力も申し分なく、十分に楽しむことのできる一冊。本としては結構厚みがあるが、すいすいとアッという間に読み終えることができる。暇つぶしに最適。
 この本の特徴というか面白いところは、やはり世界各地の博物誌的な描写である。インドやアメリカが特に重要な舞台になっているのだが、その途中に日本にも寄港する。ところがこういう本にありがちな荒唐無稽な日本文化の描写は少なく、ずい分と正確な内容であることに驚かされる。そういう点でインドやアメリカの様子もでたらめではないであろうことが推測されるし、またより興味深く読むことができると思う(なぜそう詳しいのかということについては解説を読むと納得できる)。
 ただこの小説はいろいろな伏線が未消化のまま中途半端に消えていってしまっている、奇妙な点がある。例えば得体の知れないフィリアス・フォッグ氏が何者かは結局分からずじまい、物語の発端となった銀行泥棒も何となくつかまっていて終わりだし、決闘をしかかったプロクター大佐も何となくフェードアウトと、何となくしまりがない。特にフォッグ氏に関してはやたらに札びらを切るばかりで活躍の場面が少なく(どれも重要なシーンではあるが)、召使い(まあ準主人公と言っていいと思うが)のパスパルトゥーばかりが目立っているというのも、どうも不思議な感じもある。
 あんまり書くことがなかったので適当に思いついたのを書いてみたが、なんだかんだいってもとても面白い小説であることは間違いない。


 そもそも人は、得られるものがもっと少なかったとしても、世界一周の旅に出かけるのではなかろうか。

- ジュール・ベルヌ 『80日間世界一周』 -

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