夢野久作 『瓶詰の地獄』

 嗚呼・・・・・・此の離れ島に、救いの舟がとうとう来ました。

- 夢野久作 『瓶詰の地獄』 -




写真 夢野久作と言えば『ドグラマグラ』である。夢野久作を全く知らなくても『ドグラマグラ』という名前くらいは聞いたことがあるという人がいるのではないだろうか。
 実際のところ夢野久作の小説は『瓶詰めの地獄』『氷の果て』『ドグラ・マグラ』(正式なタイトルは『ドグラ・マグラ』だ。発行時は「幻魔怪奇探偵小説」と紹介されたらしい)しか読んだことはないのでたいそうなことは言えないのだが、その作風は江戸川乱歩的探偵小説の怪奇的、幻想的な部分を濃くしたものだといえる。江戸川乱歩で言えば特に『大暗室』風なものだったのではないかと思う。よく覚えてはいないのだが・・・(『大暗室』は確か追いつめられた犯人が自分を花火で打ち上げて木っ端みじんになって自殺するというラストだったと思うんだけど・・・)
 『ドグラマグラ』も万華鏡のような怪奇的な幻想の間を漂っていくような小説であり、その想像力と構成力はすごいの一言につきると思う。確かこれも江戸川乱歩の小説に出てきたと記憶する、壁天井床がすべて鏡張りの迷路のような世界である(どうでも良いことだが「燃えよドラゴン」のラストにも出てきた)。
 まあなんに関してもそうなのだが、とにかく読んでみることである。とはいうものの文庫で700ページ近い長編なので、手にしただけで読む気がしなくなるということもあると思う。でおすすめなのが、『瓶詰の地獄』である。こちらは構成の妙がさえた短編の名作である。文庫で11ページという本当に短いものなので、立ち読みで読むことだってできる。こちらも『ドグラマグラ』に劣らない傑作と十分言えるだけのものであり、これを読んで『ドグラマグラ』に入るのも良いだろう。まあとにかく読んでみることだ。


胎児よ
胎児よ
なぜ躍る
母親の心がわかって
おそろしいのか

- 夢野久作 『ドグラ・マグラ』 -


 ・・・おれはまだ母親の胎内にいるのだ。こんなおそろしい「胎児の夢」をみてもがき苦しんでいるのだ・・・。
 ・・・そうしてこれから生まれ出ると同時に大勢の人を片ッ端から呪い殺そうとしているのだ・・・。
 ・・・しかしまだだれも、そんな事は知らないのだ・・・ただおれのモノスゴイ胎動を、母親が感じているだけなのだ・・・。

- 夢野久作 『ドグラ・マグラ』 -

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