ベッケル 『緑の瞳・月影』

『天使が大空を天駆けるとき、その大きな翼で吹きたてる風、それがわたしなのだ。わたしは、西の空に雲を吹き重ねて、太陽のために紅の寝床を設けるのだ。夜が明けると、朝陽を粉々に砕いて、花々の上に、真珠の雨を降らせる。わたしのため息は香り。お前の胸を開きなさい。そうすれば、お前の胸を幸福ではち切れさせてあげるから。』

『水は土を舐め、泥のなかに生きている。わたしは大気の世界にさまよい、果てしない宇宙を馳せ巡っている。お前はお前の心の動きに従ったらいい。お前の魂を、焔のように、渦巻き昇る青色の煙のように、立ち昇らせたらいい。翼を持ちながら、地中に深く降りて黄金を求めるものの哀れさよ。高く高く昇っていけば、愛と哀れみを発見することができるものを!菫のように、草陰に咲きなさい。わたしの豊かな口づけで、お前の姉妹なる花を咲かせる力を授けてあげよう。朝靄を吹きはらって、お前の歓喜を照らす陽の光を送ってあげよう。世に埋もれて、人に知られず暮らすがいい。そしてお前の精神が解き放たれたとき、わたしはそれを、紅い雲に乗せて、光の国へ登らせてあげよう』

- ベッケル 『緑の瞳・月影』 より『地霊』 -




写真 あまり詩は読まない。なぜかは良くわからない。好きではないということはないと思うのだが。この本もむしろ短編集として買ったのだが(まあ短編集といえばそうではある)むしろ散文詩集に近いかも知れない。それで、この本は、面白い。
 ベッケルはスペインを代表する詩人であり、スペインのお札(ペソ)にその肖像画が乗っているらしい。日本で言えばさしずめ夏目漱石である。実はベッケルはこの本ではじめて読んだ。そこら辺の内容も解説文に書いてある。まあそんなのどうでも良いとは思うが一応参考までに。
 問題は内容であるが、本当にすばらしいにつきる。なんでもそうだが、これは読まないと分からない。内容的にはスペインの伝承や、自身の旅行の思い出などからとってきた小編である。しかしこれはまさに「詩」である。またそこからは「詩人の魂」というものが読みとれると思う。「詩」とは何か。
 すごい詩人だと思う。他にどんな作品があるのか。若くして夭逝した石川啄木のような詩人ということだが、他の作品も是非読んでみたいと思っている。


 しばらくの間、絶えていた風の音がうなりだしました。枯葉は舞いまい風にさらわれて、遠く夜の闇の中へ見えなくなりました。
 わたくしはそのとき、いま思い返すことのできない、何かを考えていました。たとえまた、思い返せても、それは言葉で言い表せることではないと思います。

- ベッケル 『緑の瞳・月影』より『枯葉』 -

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