洛陽 午前三時

その一 9/9


9/9 たぶん午前三時くらい洛陽行き車内にて

 昨日駅で切符を買った時朝四時着と言われ、電車に乗るときには3:30着と言われ、じゃあ3:10起きで良いかと目覚ましをかけたら2:50に起こされ、一体この電車は何時に着くんだ?そもそもこのL430という列車、時刻表に載っていない時点でどうもおかしい。全国時刻表にはLで始まる電車なんて乗っていないのだが、何なんだろうか?LocalのLかとも思ったが西安ーチチハルのかなり長距離列車(チチハルまでは二日か三日かかるはず)だし。
 しかし天気は期待通りに良さそうだ。空には中秋の名月が皎々と光っている。
 昨日からの簡単なまとめ。四時過ぎに授業を終えて北門からバスで駅へ。いやその前に、午前中空を見たらかなり良い天気で(8/20に突如夏が終わってから二度目の快晴である)ふと洛陽行きを決断。5時くらいに駅についてチケットを購入する。本当は朝5時着くらいのを狙ってたんだけど、4時着ということで妥協した(それ以上遅く着く電車は逆に西安発がすごく遅くなるので乗りにくい)。5時とか5時半着の列車は西安始発ではないのでやはり撮るのは難しい。切符を買って時刻表に乗っていないことを訝しみつつもとりあえず宿舎に帰還。17:50発なのでカップラーメンなどの食糧を調達し、友達に最新の地球の歩き方を借りて情報をチェックし、ばたばたと走り回って出発。駅には19:30着。30分ほど余裕を見たつもりが意外と時間がない。無茶苦茶混んでいる入口の列に辛抱強く並んで入り、もう検票始まっていたので小走りで列車へ。階段降りた所が19両目で席は4両目だったのでかなり歩いた。
 列車が出発したらカップラーメンを食べてビールを飲んで22時前にさっさと就寝。なんだけどどいつもこいつもいつまでも大声でしゃべっていて、なかなか熟睡できなかった。ような気がする。
 そして列車はまだ洛陽に着きそうにない。


9/9 11:20白居易の墓の前にて

 疲れたので一休み中。朝から山を登ったり降りたり。
 今白居易(白楽天という名前の方がなじみ深いか)の墓の前なんだけど、子連れの若いお母さんが子供に「この人誰?」と聞かれて、白居易の詩をすらすらと暗唱したのには感心した(「离离原上草 一岁一枯荣」という詩。近くに碑があるのでそれを見たのは見たんだろうけどちゃんと暗唱してた)。そのあとその子が、道ばたで詩の写しを売っている人の紙を踏んづけて破ってしまい、怒られて泣き出してしまったのだが、その対応もしっかりしていた(一方で子供をちゃんと諭して、一方できちんとおじさんにも反論して)非常に立派だった。
 ・・・電車は結局3:45に到着。チケット売りのおばちゃんと電車の服務員のおじさんのちょうど中間である。しかし一時間も前に起こさなくても良さそうなものを。しょうがないので窓際に座ってぼーっとしていたら「なんでこんな所に座っているんだ?」お前が起こしたんだろうが。
 駅を出たら驚いたことに結構人がいる。チケット売り場はもちろん開いているし、タクシーやバスやホテルの客引きはうろうろしているし、駅前の雑貨屋まで開いている。まずは電車のチケット売り場に行ってみるが電光掲示板を見ると予想通りあるのは无座だけ。仕方ないのでバスのチケットを見に行くと(途中で客引きのおばちゃんに捕まって案内してもらった)西安行きのバスは8時と午後2時半の2便しか無いという。仕方ないのでホテルに泊まるかとおばちゃんについて3軒見て回るけどどれも安くもない割にちょっといまいち。さんざん値切ったりごねたりしていたら(暇だしあまり泊まりたくもなかったので)、おばちゃんも切れそうになってた。結局招待所の標準間を50元に値切って泊まろうかと思ったんだけど、今空きがないから見せられないという。6時には空きが出るからそれまで普通間で休んでろといわれたんだけど、見る前に手続きするとあとで断りにくくなるので6時にまた見に来る、ということにしてそこを出る。
 で、一応もう一度鉄道のチケットをチェックしてみたら23時の列車に硬座が残っていた。バスに乗るなら硬座と大差無いし、一晩分のホテル代もうくので(眠れないだろうけど)そちらを購入43元。おばちゃんに言おうかと思ったんだけど駅前で見つけられなかったので、6時の話はそのまますっぽかして駅の待合室で仮眠をとる。洛陽の駅はどういうわけだか身分証チェックがあって、パスポートを見せたら「コンニチハ」「サヨナラ」と声をかけられた。一応「日本語うまいね」と行っておいたけど日本人でも「ニーハオ」「ザイジェン」くらいは言えるわな。
 で待合室で20分くらいうとうとしたり本を読んだりして時間をつぶす。朝はさすがに寒くてTシャツを2枚重ねて来てたんだけど(他に何も無いので)それでもかなり寒かった。


9/9 13:20関林脇の食堂にて

 7時ちょっと過ぎまで時間をつぶしてから外へ。駅の向かいには大きなバスターミナルがあった。客引きおばちゃんは向いのバスターミナルは小さいとか言ってたけど嘘くさい。ここで探せばもっと別の西安行きのバスが見つかったと思う。バスターミナルの向いで朝食。2元。日本のケンチン汁みたいなのに(味はもっと薄い)妙な麺をつけて食べる。見たことも聞いたことも無い料理。麺がなんだか油っぽくてあまりうまくなかったけど体はあったまったしやすいので良しとする。
 その後駅の前でバスに乗って龍門石窟へ。ちょっと遠そうなので2、3元取られるかと思ったけど1元均一だった。チケット売り場と良い(西安は電光掲示板が無い)バスといい西安より進んでいる。少しだけ。
 龍門石窟。80元の所学割で40元。やっぱり学割は大きい。帰りの電車賃がほとんどそのままうく計算である。スタートから学生証持ってたら2000元以上節約できたんじゃないだろうか。
 石窟はさすがに世界遺産だけのことはあり壮大なものである。岩山一面に穴がうがたれ仏像が彫られている(莫高窟の壁画と違いこちらは彫刻である)。ご多分に漏れず顔の無い仏像も多いがそれでも十分に見応えがあるし、何よりもその数で圧倒される。80元を払う価値は十分にある。龍門では西山、東山、香山寺、白園と見学。東山は西山と同じく石窟であるが規模も造形も西山には遠く及ばない。香山寺は普通のお寺(ただし寺の中に蒋介石と宋美齢の別荘が残っている)、白園は基本的に白居易のお墓だけで、それほど見る価値はないかな。
 帰り際出口の近くの土産物屋で大きめの扇子を二つ購入。扇子立て込みで80元。市中で買えばもっと安いだろうなとは思ったものの、こういうのはその場の雰囲気とか記憶も大事なので買っておいた。「60元なら(扇子だけだと二つで60元だった)日本円で1000円行かないだろ?1000円で何が買える?」と聞かれたので「高いラーメン一杯だ」と答えたら信じてもらえなかったみたい。まあそうい考えると安いには安いのだが、海外で物を買うときにいちいち日本円換算するのは厳禁である。


9/9 20:14洛陽駅待合室にて

 長かった洛陽の一日が終わり、硬座の長い夜が訪れる。ビール一本で足りるかな?
 扇子を購入して81路のバスに乗り駅へ戻る。つもりだったのだが乗っていたら途中関林のすぐそばに停まったのでとりあえず下りてみる。バス停からちょっと歩くと思っていたのでパスするつもりだったのだが、ほぼ真ん前に停まったので何となく下りてみた。あと中国来てからまだ一度も関帝廟には行ったことなかったので物は試しということで。ここは学割が利かなくて30元。内容としては、うーん別に、という感じ。普通のお寺で仏像の代わりに関羽その他の像がおいてあって、仏画の代わりに関羽その他の絵が描いてある、というだけ。龍門の40元と比べるとかなり高く感じる。ちなみに関帝の脇侍は左が周倉(メイン)と廖化、右が関平(メイン)と王甫だった。あと関画はちょっとデフォルメされていてかわいらしい感じがする。
 関林を出て脇の店で肉丝面3.5元を食べる。味はまあまあかな。日本の冷麦みたいに細い麺を使っていたのはちょっと珍しい。
 ちなみにこの店で日記を書いていたらおばちゃんが覗き込んで「読めない」というので「日本語だ」と教えたらひどく驚いていた。「日本人なのにそんなに背が高いのか」だと。これ、中国人からよく言われることで、中国人はいまだに日本人は皆背が低いと思っているらしい。
 食事後再びバスで白馬寺へ。乗ってしばらく、よだれを垂らす寸前までぐっすり寝込んでしまった。今日に限らず夜行を使うと、食事後2時過ぎがひどく眠く感じられる。ただしこの時は目を覚ましたあと、すぐにおばあさんに席を譲って後はずっと立ちっぱなしだったのですぐに眠気は消えてしまった。
 白馬寺35元。を学割で17.5元。学生証渡したら表にしたり裏返したり三分くらい真剣にチェックしていた。龍門では中を見もしなかったのだが。でここでも何人かと聞かれた。漢字四文字の名前を見れば日本人と分かりそうな気もするのだがそうでもないらしい。
 白馬寺。中国最古の仏教寺院。らしい。お寺としては作りは普通なのだがとにかく広い。歩いていて疲れた。中国再子という意味で価値はあるんだろうけど、それ以外は特に見る物は無さそう。あとここには八重くらいの塔があるのだが、塔の周りをぐるぐる回ると良いことがあります、というのはちょっと面白い。三周七周十周百周のコースがあるらしいのだがもちろん三周で。
 バスに乗って王城広場へ。地図上の公園と形も場所もどうも違うし、となりに博物館も無いし、どうもおかしいと思っていたら、駅に戻るバスの中でやっと分かった。王城広場と王城公園を取り違えていた。本来は王城公園に行って博物館を見学しようと思っていたのだが、結局行けなかった。
 そのかわり広場の方もとても面白かった。さながら中国老人文化祭である。二胡や笙など伝統楽器を使った生カラオケコーナーがあり、書道があり、歌あり笑いありの夫婦漫才みたいなのがあり(豫剧というものらしい)、すごい賑わいぶりである。
 あっちこっちの出し物を見て回って暇をつぶす。朝の庆兴公園の賑わいもすごいが、にぎやかさではこっちの方がずっと上である。あとここはどういうわけか参加者のほとんどが老人である。


9/9 22:17待合室にて

 一休みして再開。今朝寒かったせいかちょっと風邪気味である。秋物を早く調達しないと。
 しばらく老人の活動を見学してから近くの新崋書店に移動して暇つぶしとトイレ。ここはどういうわけか日本語学習用のテキストがすごく充実していた。そのかわり日本文学は多くなくて小説だと「個人的な体験」くらいしか無かった。あとは村上春樹と源氏物語の研究本みたいなの。
 7時になって本屋も閉まってしまったので駅に向かって歩く。途中で良い感じの(多くの場合「汚い」と同義語である)市場があったので探険してみる。1L持って来た水が切れてしまったので飲料(ビール含む)7.3元を調達。結構おいしそうなパンも売ってたんだけど持ち運びがしにくいと思うのでパス。そのかわり9/9ということでたくさん売っていた月餅(中国のこの手の伝統行事は陰暦に基づいているので実際にはずっと先だけど)をいくつか購入5.5元。あと市場の中で良い感じの(つまり汚い)お店で麻辣面2元を食べる。これはうまかった。麻は無くて食べやすかったし安いし。ただちょっと少なかったので近くで吉白馍とかいうのを一つ1.5元で購入。何かと思ったら西安でよく見かける肉夹馍みたいのだった。味はまあまあかな。
 市場を出て駅へ向かうけど、どうも道と地図がかみ合わないので(この時点では広場と公園の間違いに気付いていない)、バスに乗って駅へ移動。で待合室でひたすら暇をつぶしている。電車が遅れたりしないと良いのだけど、そういう時は大体遅れるんだよなあ。


9/10 5:38西安行き列車内にて

 ちょうど渭南に到着。定刻である。4時頃から5時までずっと停車していて何事かと思ったのだが、単なる時間調整だったらしい。
 駅待合室では椅子に寝っ転がって日記を書いたり落語を聞いたり。で本を読み始めたらすぐ近くの中国人が声をかけて来た。今高三で来年日本に行ってみようかと思っている、とのこと。検票までしばらく話をして連絡先などを交換する。列車の中でもビールを飲みながら読書。そうそう、席は元々六人掛けボックス席の通路側で、机が無いものでちょっと寝にくいなあと思ったのだが、出発してすぐに中国人が席を交換してくれと頼みに来た。棚がいっぱいで荷物を置けないから(通路に置きたい、ということかな?)とのことなんだけど代わった先が四人掛けの窓側という寝るには絶好のポジションだった。非常にラッキーである。四年前に北京から西安に硬座に乗った時も同じように席を交換してもらって寝ることができたんだよなあ。そこでも本を読んだり中国人と話をしたり。灵宝で下りたおじさんは訛りがきつくてかなり聞き取りづらかったけど。そのうち疲れたので机に突っ伏したり背もたれに寄りかかったりして三時間ちょっと寝る。何事も無ければあと一時間ほどで西安である。外が明るくなり始めている。
 久々の旅行で今日はたくさん書きすぎてしまった。


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