バイトをしていた頃の同い年の友人は
自分は田中角栄が逮捕された日に生まれた、
と言っていた。 1976年のことである。
角栄は確か3、4年前にこの世を去った。
大学一年のはじめての海外旅行、
中国から帰ってくる日に トウ小平が死んだ。
2月20日のことだったと思う。
彼は世界最大の国の最高権力者だった。
オーストラリアへの旅行の数日前、
三船敏郎が死んだ。
あれは年の暮れも迫った冬のことではなかったか。
雨期のケアンズはじめじめと始終雨が降っていた。
韓国への旅行の前日、伊丹十三が自殺した。
何故自殺した?
旅行の間自殺が本当かどうか
信じかねていたような記憶がある。
彼らはみな力と名声を手にし、
形のちがいこそあれ後世に名を残す人々である。
しかし彼らはみな自分の人生にどんな意義を
見いだしていたのだろうか?
そして人生に満足していたのだろうか?
わからない。
一つわかっているのは、少なくとも、
自分は、 人生の意義もまだわからないし
満足もしていないと言うことだ。
その昔唐の玄奘は人々を救うために西へと旅立った。
しかしいまだに人々は苦しんでいる、
程度の違いこそあれ。
先輩がロシアを旅したとき、
ジプシーの老人に尋ねた。
幸せはどこにあるのか、と。
老人は黙って西を指さしたという。
ジプシーの老人が西で何を見たのか、
先輩が幸せを見つけることができたのか、
そして私は西を目指して旅に出た。
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